感情の希薄
また、間に合わなかった。
鎹鴉の案内で早足に到着した屋敷は、既に悲惨な状態だった。
いつ見ても、この光景には慣れない。
また、この世から鬼の被害が出てしまった。
自分と同じような環境を作るまいと奮闘していても、いつも間に合わないことに、自身への憤りと鬼への怒りが込み上がる。
鬼の気配はもう、ない。
しかし、屋敷の奥から2人の気配がした。
人がまだ、生きている?
鬼がいたにも関わらず、どうやって生き残った?
俺はその気配の元へと歩を進めた。
見えたのは老人1人と、腰に刀をぶら下げた武士のような佇まいをした女性が1人。
2人とも一般の人間ではないように見受けられ、特に女性の方は、…………静かだ。
しかし、2人の居場所には亡骸が6つ。
無惨にも、四肢等が引き裂かれていた。
鬼はもう気配すらない。
「……急にすまない、鬼を見かけなかっただろうか。」
2人に問いかけると反応したのは老人だけで、女性はと言うと息一つ乱れる様子もなく、ただそこにあるだけのような状態だった。
「貴方様は、鬼をご存知なのですか?!」
そう声を上げながら老人は俺の元へと駆け寄ってくる。
そんな老人の反応にも関わらず、女性は何も反応がない。
何が……あったんだ。
「……あぁ、知っている。
ここらに鬼が出たと聞いた。
それに……それは……」
言い難い。
この2人にも関係があるものだろうか。
だが、女性の呆然とした立ち姿を見ているともしかしたら……。
「ここはわたくしめの自宅で御座います。
いやはや……家族と食事をしている際に、鬼が現れました。
私は抵抗したのですがそれも虚しく……。」
あぁ……やっぱり。
間に合わなかった。
胸がギュッと締め付けられる感覚がする。
いつまで経ってもこれは慣れやしない。
老人が悔しげに顔を顰めながら、女性の方を見る。
彼女は一体、……鬼殺隊では、ない。
老人の恩人か、はたまた鬼の被害者……なのだろうか。
「あの、貴方様はもしやあの”鬼殺隊”の方でしょうか……?」
老人は伺うようにオレに尋ねてきた。
「…あぁ。そうだ。」
オレの返答に老人は目を見開き笑顔を向けてくる。
家族が死んだすぐに、なぜそんな顔ができる……?
この老人に言葉にならない違和感を持ってしまい、思わず肩が張ってしまう。
「ここに来た鬼はわたくしの孫が倒しました!
篠家は先祖が鬼殺隊の柱だったと言い伝えられております!
いや、言い伝えが本当でわたくしめは本当に、……信じていて良かったです!
巻物も残っております故、是非とも見ていただけますと!」
老人は声を弾ませて、まるで落ち着きのない子供のようだった。
家族が亡くなったばかりだと言うのに笑顔を見せる老人に、何も反応しないそこにあるだけのような女性。
一体この家は、なんなんだ。